日中報道


by koubuni
カレンダー
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30

「恨み」より「熱愛」で日本をもっと理解しよう

 2007年12月号「クーリエ・ジャポン」に掲載された私の記事―
「恨み」より「熱愛」で日本をもっと理解しよう


 8月15日、今年の靖国神社は例年より幾分かひっそりとしており、参拝した大臣も一人だけだった。小泉元総理の在任中、中国は例年8月15日の靖国神社に注目していたが、今年は政府発表の語調も緩み、「強く抗議する」「憤りを感じるといった雰囲気は消えていた。
 この夏、靖国神社は静かだったが、ネット上の議論は白熱した。日本の保守系右派の人々の多くは、安倍総理(当時)が靖国神社参拝を断念したことに不満をあらわにし、「安倍総理は中韓の圧力に屈服して参拝しなかった。ここが日本外交の軟弱なところだ」と言う人もいた。産経新聞など右派系メディアも憤懣やるかたない様子で「閣僚は正々堂々と参拝すべきだ」と主張。要するに今年の8月15日関しては、中国側の落ち着いた反応に比べて、日本は官民ともに苛立っているようだった。
 今年靖国神社を参拝した日本国民は目立って減少した。ある日本の友人はこう言って笑った。「今年は中国が靖国問題を話題にしなかったから、日本人もわざわざ行こうと思わなかったのでは?以前も、好奇心で参拝した人が多かったと思う」
 右派系の学者らは、討論会の内容などをもとめた「日本人なら知っておきたい靖国神社問題」(青林堂刊)という本を6月に出版。そのなかで、靖国問題は歴史的観点以外に法律、文化、国防、外交、国家といった角度から研究できると主張している。日本国の総理大臣による靖国参拝に中国が干渉することは、日本固有の宗教的感情や道徳観に対する干渉だと言う人もいる。
 日本在住の中国人学者王智新はこう言う。
 「靖国問題は中日関係から消えたわけではない。単に、双方の外交戦略に変化が生じたため、互いに抑制的な態度をとっているに過ぎない。中日共同の歴史研究についても、大きな成果は期待できないだろう。中国政府は国民の対日感情をコントロールしようとしているが、反日感情は消えてはいない。中国政府は日本政府と協力しあって、マイナスの影響を払拭する必要があるのです」

               すれ違う両国民の思い
 8月15日が平穏に過ぎた直後の17日夜、「中国人の対日イメージが好転した」というニュースが、日本の各ニュースサイトで報道された。北京大学と日本の「言論NPO」が共同で行った中日共同世論調査の結果で、調査は今年が3回目。5月に、中国の一般市民1609人と大学生1099人、日本の18歳以上の一般市民1000人と有識者300人を対象に同時に行われた。
それによると、日本に対する印象を「とても良い」「やや良い」と答えた中国の一般市民は24.4%で、昨年の14.5%より大幅に増えた。日中関係の現状については「大変良い」「まあ良い」と答えた人が24.9%に上り、昨年の10.4%から大きく増加した。
 「日本から何を連想するか」という質問に対する大学生の答えで最も多かったのは「桜」で、第2位が「南京大虐殺」(昨年は第1位)、第3位は靖国問題だった。一般市民の第1位は「電気製品」、第2位は「南京大虐殺」、第3位は「桜」だった。
 日本では、この1年で中国に対する印象が「やや良くなった」と答えた一般市民は17.1%で、昨年より10%増加した。しかし、「やや悪くなった」「非常に悪くなった」と答えた人は27.1%、中国に悪い印象を抱いていると答えた日本人は66.3%で、この1年で中国に対するイメージが「やや良くなった」と答えた日本人は増えたものの、日本人の中国に対する視線は相変わらず厳しいことがわかった。中日関係について、「変化はない」と答えた日本人は53.9%。「非常に良くなった」「やや良くなった」と答えた人は18.8%にとどまった。
 この調査結果から、両国民の相手国への印象の変化が同時進行しているわけではないことがわかる。
 中国人の対日感情は中日関係の改善に伴って良くなっており、多くの日本メディアは、中日関係の改善によって中国人の対日感情も好転したと分析している。産経新聞は、対日感情の好転は中国政府が世論をコントロールした結果だとしている。
 これに対し、日本人の対中感情は政府の影響を受けることもなく、中国と戦略的パートナーシップを築こうとする安倍前総理の姿勢に警戒心を抱いた人もいた。春に温家宝首相が来日した際も、日本は中国の言いなりになってしまうのでは、という議論がネットで展開された。
 もちろん、中国人の対日感情の変化を喜ぶ日本メディアもあり、「中国人が興味を持っているのは、もはや過去の歴史(靖国神社など)ではなく、文化(桜)や経済(電器製品)だ」と報じた。日本の友人はこう言う。
 「中国人が桜を好きになったことは、喜ぶべきことだ。安倍さんの「美しい」の最大の功績かもね。ついに中国人は日本にも美しい部分があることに気付いたんだ」
 とはいえ、日本の世論はまだ、中国に対して警戒心と敵意を抱いたままだ。対日外交で欠けているものは何か、日本の市民の理解を得るにはどうしたらいいのか、中国の市民はどうしたら日本を深く理解できるのか。そうしたことを、中国は自問すべきなのかもしれない。
 中日関係においてメディアは、きわめて重要な役割をはたしている。前述の世論調査によると、日本の一般市民の91.3%と有識者の84.7%がメディアを通じて中国に関する情報を得ていた。一部の日本人にとっては、中国の反日デモやサッカーファンによる暴動は、いまだに生々しい出来事だ。長い間、日本のメディアが中日関係のネガティブな面を強調して報道してきたために、世論を間違った方向に誘導してしまったのだ。
 一方、中国のメディアも2種類の日本人を好んで報道する傾向がある。中国にきわめて友好的な日本人と、中国にきわめて非友好的な日本人だ。後者の典型的な例が、中国に関して傲岸な発言が多い石原慎太郎東京都知事などだ。だが、両極端にだけ注目すると、中間の大多数の人たちを無視することになる。
 また、筆者は興味深い事実に気がついた。中国のメディアは、日本で地震が発生すると実にすばやく報道するのだ。だが、頻発する地震の報道に力を入れるより、日本を理解する助けになる社会的ニュースをもっと重視して、日本の実態や日本人のありのままの姿を伝えるべきなのではないだろうか。

               「反日」と「反中」の違い
 中日の民間交流の必要性や意義について、両国の回答者ともに前向きな姿勢を示している。日本の一般市民の63.3%と有識者の98%が、教育、芸術、観光などの民間レベルの交流が日中関係の改善に、「重要」あるいは「比較的重要」な役割を果たすと答えている。
 近年、日本は対外的な自国のPRを積極的に行っており、中国の若い世代にも日本文化への理解を深めてもらおうとしている。昨年2月に設立された「日中21世紀基金」は、日本に招待された中国の高校生の留学費用に使われている。こうした動きは、日本が中国を重視し、将来の良好な中日関係の基盤づくりを急いでいることを示すものだ。
 長く日本で暮らしてみて筆者が思うに、日本人はたとえ中国が嫌いでも、その感情を心に秘め、表情には出さないようだ。筆者の周囲の日本人の多くは、中国文化や中国旅行が好きだと言う。彼らは、単純に中国が好きなわけでも、単純に嫌っているわけでもない。具体的な問題を具体的に分析しているのだ。「中国脅威論」を叫んでいるような人でも、中国を理解することを締めたりしない。右寄りで知られる石原慎太郎でさえ公の場で中国人の友人がいると述べているし、中国のネットを賑わせたポータルサイト「新浪綱」の英語名(sina.com)を「支那」に関する論争についても知っていた。右派系ジャーナリストの桜井よしこは米国の新聞に広告を掲載し、慰安婦問題について日本を弁護するなど中国を敵視しているようだが、そんな彼女も今年4月、北京で中国の学者たいちと交流している。
 それに対し中国の嫌日家は、世界に届けとばかりに声高に反日を叫ぶ。感情的な言論もしばしばみられ、日本を不満のはけ口とするレベルから出ていない。
 最近、中国で出版された「中国印象記」を読んだ。この、1908年に中国を旅行した日本の学者小林愛雄による旅行記のなかに、ある日本人同士の会話を記した部分がある。
 「各国の商人が中国の大部分大都市で活躍している。日本人ももっと中国を研究し、中国で事業を発展すべきだ」「日本に帰ったら、速やかに中国を研究し、中国で事業を起こすよう同胞たちに伝えてくれ。そして中国を熱愛するようにと」「熱愛か。中国は確かに愛されるべき国だ」
この会話から、100年前の日本人の中国に対する野心がうかがわれる。「熱愛する」という表現は直接の意味とは別に下心も感じられるが、「熱愛」は「恨み」よりはるかに実用的だし賢い方法ではないか。いたずらに日本を罵倒するより、時間をかけて日本を理解するほうがいいのではないだろうか。
[PR]
by koubuni | 2007-12-30 18:37